*** ヴァージン・キラー ***
ばたん!!
勢いよく開かれた扉に、まったりと寛いでいた面々はその視線を集める。
人生色々の入り口の扉を景気良く開けたその人物は、木の葉の里の新米上忍・出雲日雀だった。
「……どうしよう……。」
それまで真剣な顔をしていた日雀だったが、口を開くと同時にそれは情けなく歪んだものへと変わった。
その目にはみるみるうちに涙が溜まっていく。
日雀を見詰める面々は、わけがわからず困惑顔である。
日雀は上忍になったばかりだったが、その明るさと人懐こさでみんなのアイドル的存在になっていた。
そんな日雀の涙目を見て、黙っていられる面々ではない。
「どうしたんだ?日雀。」
まず先頭を切ったのはゲンマ。
長楊枝を咥えながら、その日雀の肩を優しく抱く。
「言ってくれなきゃわかんないよ。」
横から宥める様に言うのはライドウ。
「どうしたか、まず言ってみ?」
「なあ?日雀。」
日雀とゲンマの間に割り込んだのがコテツとイズモ。
そこへタイミングよく、すっと入り込んだのはハヤテである。
「日雀…、困ったことがあるなら悩んでないで私に言ってください…ゴホッ。」
軽くしゃがみこんで、日雀の顔を見上げるように言うハヤテ。
そこで日雀がやっと口を開いた。
「あ…、あのね?とうとう私にも来たの。」
「何がですか?」
「………………色の任務。」
そして再び口を噤む日雀。
その一言は周りの面々に多大な衝撃を及ぼした。
―――日雀に色の任務ぅぅ……っっっ!!??
説明しよう。
色の任務とは、読んで字の如く(?)くのいちが使う色香を使った任務のことである。
ぶっちゃけて言えば、相手にヤらして殺って来いと言う訳である。(ぶっちゃけすぎ)
しかしながら、女の忍と言えば色の任務など当たり前のこと。
周りの面々は努めて平静を装っていた。
「…まあ、いつかはやることになるもんだし、な。」
「そうだよ。日雀。」
「…それはわかってたけど……。」
「それに絶対最後までヤルってわけじゃないんだぜ?」
「…でもー……。」
「幻術使って一回も最後までいかなかったってヤツもいるしな。」
「…私幻術苦手だもん……。」
「ぐっ…!(致命的!)」
「それでも日雀はそういうのも全部覚悟の上で忍になったのでしょう?」
「…そうだけど……。」
「では何故そんなに悩んでいるんです?」
「………………。」
沈黙が続いた。
みな、日雀の次の言葉を待っている。
ごくり、と誰かのノドが鳴った。
「…だって、初めて…なんだもん………。」
妖精の羽音のような日雀の声。
しかし忍である面々には、ちゃーんと聞き取れてしまっていた。
―――ははははは、初めてぇぇ〜っっ!!??
これには流石の上忍と言えど、慌てる面々。
「あんときゃあ、さすがの俺もヘソで茶ぁ沸かしそうだったぜ」と後にゲンマ氏は語る。
「ははは初めてって、日雀、今までに付き合ったヤツとかは!?」
「いないよ。」
「嘘だろ!?」
「こんな嘘自分でもつきたくありません!」
「じゃあ、もしかしてキスも…?」
「したことありません。」
「マジで!?」
「哀しいぐらい大マジです。」
「ゴホッ、初めてが任務ではあんまりですね……。」
「でしょ!?もう私男に生まれればよかった!男なら色の任務なんてないしさ!!」
―――いやっ!それは俺が困ります!!!
面々は各自、心の中で同じツッコミを入れる。
「…何なら、オレが相手してやろうか?」
ここでも先手必勝。
第一のコース・長楊枝のゲンマ〜。好きなものはかぼちゃの煮物〜。
「いやいやいや!ここはこのオレが!!」
第二のコース・好奇心旺盛鼻のコテツ〜。
「オレにしとけよ、日雀。優しくしてやるぜ。」
第三のコース・レバニラ嫌いな顎のイズモ〜。
「日雀、オレは!?」
第四のコース・几帳面な乙女座ライドウ〜。
「私なら安心ですよ、日雀…。」
第五のコース・至ってマイペース病弱な個人主義ハヤテ〜。
以上が今回のラインナップ。
…かと思いきや。
「それ、オレも混〜ぜて?」
「オレも黙ってらんねえなあ。」
「日雀!オレと青春しようぜ!!(歯キラリ☆)」
カカシ、アスマ、ガイの3人が出馬を表明。
計8人による日雀の初めて争奪戦がここに幕を開けたのである。
「何でおめーらも知ってんだよ?」
「ん?今さっきアオバが泣きながら走り去ってったのよ。」
「『日雀さんの初がぁぁぁーっっ!!!』とか叫びながらな。」
「そこでここに来てみればこういう事態じゃないか!」
「「「「「「「「日雀!初めては俺にしとけ!!!」」」」」」」」
「……みんな…………。」
紳士な(少なくとも表向きだけは)面々を前にして、日雀は漸く表情を緩める。
その時面々は『よっしゃもらったあー!!』と心の中で雄叫びを上げていた。
「でも、こんなにみんなに言われたら、嬉しいけど誰に頼んだらいいか分かんないよ。」
苦笑いの日雀が言った直後だった。
バタン。
人生色々の入り口が開かれた。
そこに立つのは1人の男。
注がれる9人分の視線。
「…ん?どうした?やけに静かだな。」
男は面々の間を突っ切って窓際に腰掛ける。
最初、『コイツも日雀の初を狙いに来たんじゃねえだろうな』と睨んでいた面々。
しかし、いつも通りな彼の態度にそうではないと確信。
ホッと胸を撫で下ろす。
「ああ。」
そこで男は何かを思い出したように日雀の方を振り返った。
身構える面々。
きょとんとする日雀。
「日雀、今度の任務な中止になったぞ。」
「え?」
「「「「「「「「はあ?中止ぃ?」」」」」」」」
日雀の言葉を掻き消すような面々のセリフに男も驚く。
面々の表情と言ったら、上忍とは言えないほどの間抜け顔。
「何だ、お前らも知ってたのか?」
「って、中止って何で!?」
「詳しく教えろ!」
「早く!!」
「…何なんだよ。落ち着けって。」
「いいから早く言え!」
大柄でサディストなこの男とは言え、上忍の面々にこうも凄まじい表情で迫られては流石に慌てる。
「あのな…、その獲物さんてのが色ボケしたじじいだったんだがな。そいつはどーも熟女好きらしいんで、スズメのおばさんに任せてきた。
たいした獲物じゃねえし、中忍のスズメでも余裕だろってことで。勿論、火影さまの了承も貰ってきた。」
「…じゃあ………。」
「ああ、日雀には今回、色の任務は無し。」
「「「「「「「「……………………。」」」」」」」」
「ん?」
「ありがとイビキ―――!!!」
「うわっ…!日雀!?」
木の葉一のサディスト・森乃イビキも日雀に抱きつかれてはトマト顔負けの赤面状態である。
いつもの凶悪顔はどこへやら、緩みきった表情からは幸せオーラが放出中。
これを見てしまっては、誰も彼が拷問と尋問のエキスパートだとは思うまい。
その傍らでは、固まってしまっている面々。
日雀の『初は任務で』危機は免れたものの、
これからしばらくの間は面々(イビキ含む)による『日雀の初争奪戦』が繰り広げられるのは間違いない。
幕はまだ上がったばかりだ。
「イビキ大好き―――!」
とりあえず今回は日雀を危機から救ったイビキの勝利。
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