マネ争奪戦 「すごーい・・・出雲さん、速い!」 現在体育の授業中。男女共にマラソンをしていた。 日雀は全く本調子を出すことなく、走っていた。 ふと、足を進める自分の横によく見知った人物が現れた。 「日雀、本気じゃないでしょ?」 幼なじみのリョーマだ。 「だって、下手に本気出して目立ちたくないじゃない?」 「そりゃ、まぁね」 「普通の中学生って、結構体力無いんだね」 「日雀が異常なんだよ」 「仕方ないじゃん。鍛えられ方が違うんだから」 そう言うと、日雀は僅かにスピードを上げた。 一般の中学生であれば、もはや彼女にはついていけないであろうが、そこは負けず嫌いのリョーマ。 自分も速度を上げ、なんとか日雀についていった。 「おいおい・・・あの二人は人間かよ・・・」 後ろを走る堀尾が先頭をひた走る2人に目を向け、横の二人、カチローとカツオに話しかけた。 当然、彼等も走っているのだが、位置としては中の上。 先頭集団を引き離し、どんどん前へと出ていく日雀とリョーマ。 結局、最後までその状態のままトバした二人はかなり速いうちにゴールしてしまった。 教師ですら、そんな二人に驚きを露わにしていた。 日雀は特になんてことはないといった表情だが、リョーマは肩で必至に息をしていた。 「リョーマ、大丈夫?」 日雀は自分の横で疲れ果てているリョーマに話しかけた。 「・・・やっぱ、ムカつくかも」 「ってか、無理についてこなくても良かったんじゃない?」 「だって、なんかヤじゃん。日雀に置いて行かれるのって」 「そう?私は別に気にしないけど」 「俺は気にするの」 他の生徒達がまだマラソンを終えぬ中、二人はそんなことを話していた。 「へぇ・・・これは意外だね ふと窓の外を見ていた青学テニス部屈指のデータマンがノートに筆を滑らせたことを、二人は知る由もなかった。 ****************************** 「・・・ねぇ、コレ、どういうこと?」 「俺が聞きたいくらいなんだけど」 日雀とリョーマの二人は弁当箱を抱え、逃げるように走っていた。 後ろには上級生と思われる集団。男もいれば女もいる。 「出雲さん!その脚力!!是非陸上部に・・・!!」 「いや、その並々ならぬ持久力!是非とも我がバスケ部に!」 「何言ってるんだ!出雲さん!!我らが剣道部が君を迎え入れよう!!」 どうやら、クラブ勧誘団体様のようだ。 今日の体育の時間の日雀の驚くべき脚力と持久力は瞬く間に学校銃の噂となっていたのだ。 「・・・どうしよ・・・ねぇ、リョーマ、この人達を振り切るなら何処へ行けばいい?このままじゃお弁当食べ損ねちゃう」 「屋上・・・かな。でも、追いかけてくるよ」 「大丈夫。リョーマは先に行ってて。私一人なら振り切れるから」 「そっか。じゃあ、先に行ってるよ?」 「うん。すぐ行くから」 ここでリョーマは戦線離脱。 リョーマが離れたあとも、しつこい上級生達は日雀を追い続けた。 リョーマはそんな彼等の背中をみながら、はぁと小さくため息をつき、一人屋上へと向かった。 ****************************** 「・・・どういうコトっすか」 リョーマは屋上の扉を開けると、目の前の光景に明らかに不満げな表情をする。 「おっ!越前!やっと来たな!」 「やっほ!おチビ〜」 「随分遅かったね」 「データでは、もうすぐ彼女も来るはずだけど・・・」 リョーマの目の前にはテニス部のレギュラー陣が既に腰を降ろしていた。 「先輩達・・・なにやってんっすか」 「え?だって、日雀ちゃん来るでしょ?越前ばかりいい思いをさせるわけにはいかないじゃない?」 「なんでここに?」 「うちには何でもお見通しなデータマンがいるからね」 リョーマの問いに、不二は乾の肩をポンポンと叩きながら黒い笑顔でサラリと答えた。 「リョーマ、遅くなってゴメンね」 リョーマから遅れること僅か3分、日雀が屋上に姿を現した。 「・・・あれ?」 日雀は目の前にリョーマ以外に見知った人間がいることに気づき、首を傾けた。 「えっと、テニス部の方ですよね?」 日雀は腰を降ろす男達のもとへ歩み寄った。 一方の男達は手塚・乾・海堂・リョーマを除き、他の男達は満面の笑みだった。 「そうだにゃ!俺達、テニス部のレギュラーなんだにゃ!」 菊丸お得意の猫言葉で嬉しそうに日雀に話しかけた。 「レギュラー?皆さん、レギュラーなんですか?」 「俺は今はレギュラーじゃないけどね」 日雀の問いに、乾が短く返した。 手の中にはデータノートが開かれており、何かサラサラと筆を走らせていた。 「そういえば、自己紹介がまだだったよね?俺は不二周助。3年だよ」 「あ、俺ね、菊丸英二!英二でいいにゃ!俺も3年!」 「3年の乾貞治。よろしく」 「俺、2年の桃城武な!桃ちゃんでいいぜ」 「・・・海堂薫。2年」 「俺は3年の大石秀一郎。よろしくね」 「あ・・・俺、河村隆。3年だよ」 「3年の手塚国光だ」 男達の短い自己紹介を日雀は笑顔で聞いていた。 「出雲日雀です。宜しくお願いします」 一通りの自己紹介を聞き終え、日雀も自分の名を名乗り、軽く頭を下げた。 「あ、日雀ちゃんも一緒にお弁当食べない?俺達も今から丁度昼食をとろうとしてたんだけど」 「え、いいんですか?私がお邪魔しちゃっても・・・」 「日雀ちゃんなら大歓迎にゃ!」 そう言うと、菊丸は日雀の手を引き、自分と不二の間に日雀を座らせた。 リョーマは不二の『丁度』というセリフを『君を待ってたんだよ』と自己解釈し、少々不満そうな表情で桃城の隣に腰を降ろした。 ・・・楽しい楽しいランチタイムの始まりである。 ***************************** 「日雀ちゃん・・・それで足りんの?」 横にいた菊丸が日雀の弁当を覗き込みそう呟いた。 それはやはり、昨日同様果物のみの弁当だった。 「あはは、私、果物が主食だから・・・」 「うーん、確かに、必要な栄養素を持つ果物ばかりだけど、補えないものもあるだろう、これじゃあ」 不二の横に腰を降ろす乾はノートに筆を滑らせながらそう言った。 「補えないものは朝、適度に取るようにしてるから大丈夫ですよ」 「なるほど」 乾は聞き漏らすことなく、その内容をノートに書き込んだ。 「ところで、日雀ちゃん。部活はもう決めたの?」 不二が早々と問題を切り出した。 リョーマを除く一同の視線が日雀へと注がれる。 「まだ決めてませんよ。何故か色んな勧誘は来ますけど・・・」 「じゃあさ、テニス部のマネージャー、やてみない??」 「マネージャーですか?」 菊丸は勢いよくそう問いかけた。 「うん。今は俺がマネージャーの代わりをしてるんだけど、手伝ってくれると嬉しいね」 乾が付け加えるようにそう言った。 日雀は突然のことに、すぐには返事を返さなかった。 それを見越した大石が最後にこういった。 「あ、なんだったら、今日の放課後、見学に来ないかい?決めるのはそれからでも遅くないし・・・」 大石の言葉に、日雀は少し考え込み、そして頷いた。 「じゃあ、そうさせて頂いてもいいですか?」 「「「「「「もちろん」」」」」」 リョーマ・手塚・海堂を除く全員が声を揃えてそう答えた。 手塚は小さくため息をつき、リョーマは不満そうな表情でそんな日雀達を見ていた。 ***************************** 「素敵な先輩達だね」 「・・・どーだか」 5時限目の数学の時間、日雀は隣に座るリョーマにこっそりと声をかけた。 「リョーマ、何か起こってる?」 「別に」 「嘘。怒ってるでしょ?私、何かしちゃった?」 「日雀は何もしてないよ」 「でも・・・」 言いかけたとき、自分目掛けて何かが飛んでくるのを感じた日雀は、素早い反射能力でそれを見事に受け止めた。 手の中にあるのは使いかけのチョーク。 日雀が頭を上げると、全員が驚きの表情でこちらを見ていた。 おそらく、クラスメイト達は素早くチョークを受け止めた日雀に驚いたのだろう。 「出雲・・・おしゃべりとは良い度胸だ」 額に青筋を立てた数学教師が日雀の元へ歩み寄った。 「あ、すみません」 「随分余裕があるようだな・・・では、黒板の問題を全て解いてもらおうか」 チョークを受け止められたことが少々悔しかったのか、その教師は問題がギッシリと書かれた黒板を指さした。 そこには、習ったばかりの数式を応用した問題が数問書き記されている。 クラスメイト達は日雀を気の毒に思った。 リョーマも、多少この教師の傲慢な態度に腹を立てたのか、その口を開き書けた瞬間、何かが唇にあてがわれた。それは日雀の人差し指だった。 日雀はリョーマに向かってウィンクすると、黒板に向かい、先程キャッチしたチョークで淀みなくその回答を記していった。最後の問題の答えを記し終わった日雀は教師の元へ歩み寄り、チョークを渡して屈託無い笑顔を向けた。 「これで宜しいですか?先生」 そんな日雀に、その教師もそれ以上文句を言うことは出来なかった。 記された答えは、模範解答のごとく全て正解だった。 「・・・よろしい」 その返事を聞き、日雀は教師にチョークを返すと自分の席へと戻り、腰を降ろした。 「日雀、目立ちすぎだよ」 「うーん、やっぱり?」 「『平穏な学生生活』を送りたかったんじゃないの?」 「難しいなぁ」 リョーマの言葉に、日雀は僅かに苦笑した。 そして放課後、日雀はテニス部へと訪れる───────

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