体験入部/後編 リョーマと桃城は試合を終え、他のレギュラー陣のベンチに歩み寄った。 「あれ・・・日雀は?」 リョーマはふと、そこに日雀の姿がないことに気がついた。 「日雀ちゃんなら部室だよ」 リョーマの問いかけに答えたのは不二だった。 不二は嬉しそうな笑みを浮かべてリョーマを見ている。 「何でっすか?」 「体操服に着替えてくるってさ」 「だから、何で・・・」 リョーマが眉をひそめてそう言いかけたとき、問題の本人が帰ってきた。 「すみません。お待たせしちゃって・・・」 日雀は小走りにレギュラー陣の待つベンチへと足を進めた。 「あれ、リョーマ。終わったの?」 「・・・そんな事より、何してんの?」 「え?体操服に着替えてきただけだよ」 「何で?」 「不二先輩に『テニスの相手をしてくれ』って言われたから。制服じゃ動きづらいじゃない?」 リョーマの問いに、日雀はきょとんとした表情で首を傾けてそう答えた。 一方のリョーマは日雀の言葉を聞き、一瞬不二を睨み付けたが、そんな事に臆する不二ではない。 「不二先輩、日雀と試合なんて、ダメっすよ」 「でも、日雀ちゃんは快諾してくれたけど?ねぇ、日雀ちゃん」 「え?ハイ。別に、私なんかでいいんだったら・・・」 日雀の言葉に、リョーマは不機嫌そうに眉を寄せた。 「まぁまぁ、いいじゃん別に。おチビ、堅くなりすぎー」 菊丸はそんなリョーマを宥めるように、リョーマの頭をポンポンと叩いた。 実際、この場にいる者達でこの試合に意義を唱える者はリョーマだけだった。 部長の手塚でさえ、二人の試合を止めはしなかった。 全員が日雀の実力を確かめたいと思っていたのだ。 やがて、リョーマは諦めたような表情で小さくため息をついた。 「じゃあ日雀、後で俺ともやってよ」 リョーマは半ば逆ギレのような発言をしたが、日雀はそれを笑顔で受け止めた。 「いいよ。あ、ラケットお願い」 「うん」 日雀の言葉に、リョーマは端に退けていた自分のラケットバッグから一本のラケットを取り出した。 それはいつも二人で打ち合いをする時に日雀が使っている『日雀専用』ラケットだ。 「ありがと」 日雀はそれを受け取ると、不二に促され、コートへと向かっていった。 「・・・あれって、日雀ちゃんのラケットなのか?」 ふと、桃城がリョーマへと問いかけた。 「俺のっすよ」 「じゃあ、日雀ちゃん、ラケット持ってないのかにゃ?」 「普段、日雀はテニスしないし・・・だからやるときは俺のラケットを貸してるんっすよ」 「ふーん」 全員はその言葉に納得し、再びコートへと視線を戻した。 「よろしくね」 「宜しくお願いします」 不二と日雀は向かい合って握手を交わし、各々のコートへと足を進めた。 ******************************* 「・・・嘘・・・」 堪らずに菊丸が呟いた。 リョーマを覗く全員が瞬きも惜しむような状態でコートに釘付け状態になっていた。 「不二が・・・負けた・・・」 目の前には試合を終えて握手を交わす不二と日雀の姿。 不二はかろうじて笑顔を保っていたが、大きく肩を上下させ、汗を流すその姿はどう見てもかなり疲労している。一方の日雀は普段と全く変わらないといった状態だ。 この試合は、双方かなり長い時間戦っていた。 不二の敗因は『体力』だった。 日雀は幼い頃の家庭環境から、常人では予想できないような訓練や鍛錬を施されてきた。 その結果、常人離れした体力を備えているのだ。 技術面でも、日雀の場合、幼い頃にリョーマに付き合って南次郎のコーチを受けていたため、南次郎直伝の技術が身に付いている。 それに加えて、幼い頃からの鍛錬の賜物とも言える『持久力・瞬発力・動体視力』。 プレイヤーとして必要な物は全て兼ね備えているのだ。 その事実を知らないリョーマを覗くレギュラー陣は目の前の光景が信じられない様子だった。 自分達の元に歩み寄る不二と日雀に目を向けたまま、全員は驚愕の色を浮かべていた。 「まいったなぁ・・・ホントに強いんだね」 「そうですか?私、リョーマ以外にテニスの相手をしたのって1人しかいないんですよ」 「1人?誰だい?」 「内緒です」 日雀はクスクスと笑いながらそう答えた。 リョーマ以外に相手をした・・・それは他でもない、リョーマと日雀にテニスを教えた張本人・南次郎のことだった。 「リョーマ、ラケットありがと」 日雀はリョーマに借りたラケットを返そうとしたが、リョーマはそれを受け取らなかった。 「不二先輩、強かった?」 「うん。少しやりづらかったかな」 「ふーん。じゃ、行こうか」 「え?」 「俺ともやってくれるって約束したじゃん」 「あ、そっか。ゴメン」 そう言い、リョーマと日雀はコートに向かおうとしたが、他のレギュラー陣達が慌ててそれを止めた。 「おチビ!日雀ちゃんは今試合を終えたばっかりなんだぞ!?」 「だから何っすか?」 「おいおい、お前、日雀ちゃんの体力考えろって」 「あ、私なら平気ですよ」 菊丸と桃城の申し出を遮ったのは、日雀だった。 日雀の言葉に、先程試合の相手をした不二はもちろん、レギュラー陣は驚きを隠せないといった表情を浮かべた。 「日雀ちゃん・・・疲れてないの?」 ふと、タオルを片手に不二はそう問いかけた。 「はい。全然平気です」 きょとんとした表情で、日雀はそれに答えた。 先程の試合は、かなり長引いた試合だった。両者が一歩も引かないといった状態で続けられ、先に限界が来たのは不二だった。 一同はそれに驚いたが、今の日雀の発言に更に驚きを露わにする。 「・・・日雀ちゃん、俺も日雀ちゃんと試合してみたいにゃ!」 申し出たのは菊丸だった。 その言葉に、日雀は大きな瞳をパチパチさせ、リョーマは呆れたようにため息を漏らした。 「日雀ちゃん!俺も俺も!!」 「俺も日雀ちゃんとやってみたいな」 「お・・・俺もいいかな・・・?」 「ふしゅ〜」 強さに貪欲なレギュラー陣達は「自分も」と日雀に試合を申し出た。 流石にこれはダメだろうと、手塚がため息をつき、全員に注意を促した。 「お前達、無理を言うんじゃ・・・」 手塚が言い終える前に日雀の言葉によってそれが遮られた。 「いいですよ」 日雀の言葉に、申し出た者達の顔に笑顔が宿る。 一方の手塚は眉を寄せていた。 『いくらなんでも、全員は無理だ』 それは横にいた乾も感じていたことだった。 しかし、乾は『日雀のデータを取りたい』という欲望に負け、彼等に歯止めをかけるような行動には出なかった。 「そのかわり、先に3ゲーム先取した方が勝ちって事でいいですか?全員1セットゲームってのは時間的に無理ですから・・・」 「「「「「勿論!!」」」」」 日雀の言葉に、男達は大きく頷いた。 日雀の言葉に、手塚は再びため息をつき、そして口を開いた。 「出雲」 手塚の呼びかけに、日雀は手塚に視線を向けた。 「何ですか?手塚部長」 「・・・俺も、いいか?」 やはり『自分もこの少女と戦ってみたい』という欲望には勝てなかったのか、手塚は少し小声でそう呟いた。 そんな手塚に、日雀は満面の笑顔で返した。 「勿論ですよ」 そんな屈託無い日雀の返答に、手塚は僅かに安堵の色を見せた。 「さてと、じゃあ、データを取らせて貰おうかな・・・」 そんなレギュラー陣の背後で、乾はノートとペンを握りしめ、眼鏡の端を輝かせていた。 **************************** 空が赤々と染まっている。 いつもより部活・・・というか、日雀との試合が長引き、手塚の指示で他の部員達はすでに帰宅させられていた。 コートにいるのはレギュラー陣と日雀だけだ。 日雀・乾・手塚・不二・リョーマ以外は全員地面に倒れ込んだ状態だった。 「まさか、全員負けるとはね・・・」 乾はノートに筆を走らせながらそう呟いた。 「英二先輩、部長のは没収試合になるんすか?」 「多分。でも、何で日雀ちゃん、途中でやめちゃったんだろ・・・」 桃城と菊丸は、地面に倒れ込んだ状態でそう会話していた。 あれから、日雀は申し出をしてきた全員とハーフセットの試合をした。 ただ、リョーマだけは「また後日相手をしろ」と言い、自ら辞退した。 不二に関しては最初に試合をしている。 乾は、本日はデータ収集に専念したのか、珍しく見ているだけで終わった。 日雀は、菊丸・桃城・大石・河村・海堂・手塚の順に試合をこなしていった。 全員、最終的に体力が持たず、負けてしまうと言うクチだった。 しかし、手塚の時だけは違った。 開始数分後、日雀が突然試合放棄をしてしまったのだ。 だから、手塚の試合にのみ、『没収試合』という形で幕を下ろしている。 ふと手塚は、やはり平気な顔でリョーマと会話を交わす日雀へと目を向けた。 頭を過ぎったのは、試合中に日雀に言われた言葉だった。 **************************** 遡ること十数分前の事だった。 「手塚部長」 日雀は手塚と数分ボールを打ち合うと、突然動きを止めてネットへと歩み寄った。 手塚も、何事だろうかとネットに歩み寄る。 「どうした」 ネット越しに、手塚は日雀に問いかけた。 日雀は手塚を見上げ、口を開いた。 「無意識でしょうけど、腕、庇ってますよ」 「!?」 日雀の言葉に手塚は驚いた。 自分の腕が故障している事は当然日雀は知らない。 故障しているといっても、もうほとんど治りかけているし、手塚自身、庇っているつもりもなかった。 そんな僅かな違和感に、日雀は素早く気がついた。 日雀は武道家元の人間だ。 相手の微妙な身体的変化にも過敏に反応するように育てられている。 日雀は数分の手塚との試合で『手塚の腕が故障している』ということを見抜いたのだ。 「今日は止めましょう」 「出雲・・・」 「部長の腕が完治してからでも遅くないですよ。私、待ってますから」 そう言い、日雀は優しく微笑んだ。 その言葉に、手塚も渋々頷き、ラケットを下げた。 二人はネット際で会話していたため、他のレギュラー陣にその声が届くことはなかった。 **************************** 「皆さん、大丈夫ですか?」 ふと、日雀は地面に座り込んでいる菊丸・桃城・大石・河村・海堂に問いかけた。 「・・・ってか、なんで日雀ちゃん平気なの?」 菊丸はお手上げといった表情で日雀に問いかけた。 「そりゃ、少しは疲れてますよ。皆さん程じゃないですけどね」 「日雀ちゃんって、なんかテニスの特別な指導でも受けてんの?」 この桃城の質問は全員が思っていたことだ。 「いいえ。テニスはリョーマに付き合う程度しかやってませんよ」 「ホントにそれだけで、こんなに上達するものなのかい・・・?」 大石は疑問符を浮かべてそう言った。 「テニスはホントに囓る程度しかやってませんよ・・・私の場合、家庭環境が大きく影響してますから・・・」 日雀は苦笑しながらそう答えた。 男達は各々にため息を漏らし、それ以上何かを聞こうとはしかなった。 「さて、出雲」 乾がノートをパタンと閉じて日雀に歩み寄った。 「どうだった?」 「ハイ。とても楽しかったですよ。皆さん、良い方ばかりですね」 「じゃあ、マネージャー、やってみる?」 乾は単刀直入にそう問いかけた。 乾の言葉に、日雀は流すように全員を見た。 そして日雀が口を開こうとした、その時だった。 「ふむ。なかなか面白い子じゃないか」 「・・・竜崎先生!」 「アンタ達の試合、校舎の窓から見させて貰ったよ」 不意に手塚の横から竜崎が顔を出し、手塚は僅かに驚いたような声をあげた。 「おやぁ・・・アンタ転入生の子じゃないかい?えーと、名前は・・・」 「出雲日雀です。1年2組の方に籍を置いてます」 「あぁ!アンタかい!南次郎から話は聞いてるよ」 「南次郎さんからですか?」 スミレと日雀の会話に、リョーマは呆れたようにため息をついた。 「アンタを宜しく頼むってね」 「そうですか」 スミレの言葉に日雀は『南次郎さんらしい』という安堵の表情を浮かべた。 「で?」 「はい?」 「マネージャー、やるのかい?」 スミレの言葉に、日雀はレギュラー陣に向き直った。 「・・・私で、いいんですか?」 日雀のその言葉に、男達から歓声があがったのは言うまでもない。

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